大迫勇也はヴィッセル神戸に何をもたらしたのか? 優勝決定試合でカメラマンが見た“半端ないエースの猛ゲキ”「弱気の虫を叩き潰すかのように…」武藤嘉紀は涙ぐみ、ベンチでは初瀬亮が祈っていた。4分と表示されたアディショナルタイムは、もういつ終わってもおかしくなかった。大迫勇也は何度も両手を広げ、もう「その時」が来ているはずだ、とレフェリーにアピールしていた。 歓声で笛は聞こえなかったが、カメラのレンズ越しに大迫がそれまでとは違う手の広げ方をしたのを目にして、試合が終わったことがわかった。 大迫勇也がヴィッセル神戸にもたらしたもの2-1。前日に2位の横浜F・マリノスがアルビレックス新潟と引き分けたことで、名古屋グランパスに勝利すれば優勝を決めることができる状況になった首位・ヴィッセル神戸は、満員のノエビアスタジアム神戸で歓喜の時を迎えた。 今季ここまで22ゴールを決めてきた背番号10の“半端ないエース”は、この日も2アシストでチームを勝利に導いた。その後のフラッシュインタビューで「このために日本に戻ってきた」とコメントを残すことになる大迫は、タイムアップの瞬間には感情を露わにしていたものの、泣き顔の武藤と抱き合って一回転すると安堵の表情に変わった。だが、むしろその穏やかな顔つきが、どれだけの重責を自らに課してきたのかを雄弁に物語っていた。 神戸に加入してからというもの、大迫はゴールという結果やプレーのクオリティだけでなく、そのメンタルの強靭さをたびたび見せつけてきた。 昨年の残留争いの佳境に行われたガンバ大阪戦や、今年9月のマリノスとの天王山でPKを決めた場面のような、自分にどんな重圧を向けても(あるいは周りから向けられても)決してブレることのない強さだけではない。チームが揺れてしまいそうなときに支える強さ、言うなれば「自分と同じ方向に矢印を向かせる強さ」を示してきたのだ。 優勝を決めたこの試合でも、そんな場面があった。 神戸が2点をリードした前半26分、佐々木大樹が稲垣祥に倒されてFKを獲得。この際、佐々木は腹部を痛めたようだった。痛む箇所に手を当てながら立ち上がってポジションにつこうとする佐々木に大迫が声をかけた。大丈夫なのかを確認し、ほどなくプレーが再開された。 直後の29分、佐々木はビッグチャンスを迎えた。中谷進之介のタッチが流れたところに反応してボールをものにすると、ペナルティエリアに抜け出し、GKランゲラックと1対1。しかし、シュートは枠をとらえることが出来なかった。痛みが精度を狂わせたのか、それともプレーが切れたタイミングで痛みが襲ってきたのかはわからないが、彼は再び腹部に手を当ててうずくまった。 1点差に迫られた直後、弱気の虫を叩き潰すかのように…佐々木はフィジカルと運動量を武器に戦う今の神戸のプレースタイルを体現する選手だ。だが、このまま強度の高いプレーを続けられるのか心配になるほど、顔は苦痛に歪んでいた。立ち上がってもかなり痛そうな表情の背番号22を見て、大迫はすぐに合図を送った。ベンチにではなく、佐々木に対してだ。 大迫の表情は落ち着いていた。隙を逃さずにボールを奪いシュートを放ったことについては拍手で継続を促し、続けて自身の胸に軽く手を当て、アカデミー出身の24歳に冷静さを保たせようとした。 わずか1分後、神戸はキャスパー・ユンカーにネットを揺らされ、1点差に迫られる。この日のスタジアムは、試合前から初優勝への期待による高揚感に満ちていた。開始12分で神戸が幸先よく先制し、さらに14分に追加点をあげると、サポーターの興奮は最高潮に達した。しかしユンカーのゴールによって、趨勢は一気にわからなくなった。 VARによるゴールチェックを待つ間、神戸の選手たちはあちらこちらでコミュニケーションをとっていた。大迫は扇原貴宏と笑顔も交えて話し合うと、次に佐々木を見た。 決定機を逸した直後にチームが失点し、痛みも依然として残っている――そんな佐々木に、今度は静かな表情でも笑顔を交えてでもなく、激しい表情で檄を飛ばした。そして大迫は、自らのユニフォームのエンブレムのあたりを強く叩いた。まるで、弱気の虫やネガティブな気配を叩き潰すかのように。 神戸は“優勝して然るべきチーム”だった1点差となった後、試合は決して神戸ペースではなかったが、大迫はチームの先頭に立って戦う姿勢を貫き続けた。プレーが切れたタイミングでしばしば痛そうに腹部に手を当てていた佐々木も、プレー中はなおも「神戸らしい選手」であり続け、ハーフタイムに交代することもなく後半のピッチに立った。とはいえ、さすがに普段のように試合終盤までフルスロットルで動き回るのは無理だった。後半5分、とうとう体が限界に達した佐々木は交代でピッチを後にした。痛みをこらえて戦い抜いた彼に対し、スタジアム中から惜しみない拍手が送られたのは言うまでもない。 ジェアン・パトリッキと交代した佐々木はピッチを振り返った。今季は32試合に出場して7ゴール。躍進を遂げたシーズンの優勝がかかった大一番で、不本意なかたちで交代せざるを得なかった悔しさは計り知れない。だが、彼はその感情を抑え込み一礼すると、去り際にチームを鼓舞してみせた。 大迫の振る舞いと、それに応えた佐々木。今季の神戸の試合では彼らのような関係性を、至るところで目にすることができた。選手間だけでなく、吉田孝行監督と選手たちの間にもそれがあるのは間違いない。 いまやヴィッセル神戸は、誰もがブレることなく勝利のために戦い続けるチームになった。背景には、大迫を発信源に伝播した強靭なメンタリティ、さらに信頼をベースとした互いへの要求レベルの高さがある。 その象徴となるようなシーンを、優勝がかかった大一番でも目の当たりにさせられた。なおも歓喜が続くピッチにカメラを向けながら、優勝して然るべきチームだ、と誰に言うでもなく胸の内でつぶやいた。 (出典:Number Web) |
22ゴールという結果だけでなく、その強靭なメンタリティでヴィッセル神戸を優勝に導いた!!
もし今の日本代表で大迫勇也を招集して、1トップで起用したらどうなるのか。
技術面はもちろんのこと、その闘志あふれるプレーでも間違いなく
日本代表にも、もたらすものは大きいと思うのだが。
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