(出典 www.nikkansports.com)

「イニエスタ獲得の裏側」を楽天グループ社長室長が明かす…三木谷浩史、電光石火の「自宅訪問」と最強の「口説き文句」


2022年に創業25周年を迎えた、楽天。FCバルセロナとのスポンサー契約に続き、世間に大きな衝撃を与えたのが「イニエスタ獲得」だった。社長室長の安藤公二氏(アンコー)の証言から、世界一の選手獲得の裏側を解き明かす。三木谷浩史氏監修の最新刊『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』からお届けしよう。

三木谷自らイニエスタの自宅へ

 プライベートジェットの中で三木谷が決めたのは、実はFCバルセロナとのパートナー契約だけではなかった。安藤がもう一つ、忘れられないのは、日本だけでなく世界を驚かせた、ヴィッセル神戸アンドレス・イニエスタ選手の獲得だ。

 FCバルセロナのスターにして、スペイン代表としても活躍した世界最高のミッドフィルダー。彼がJリーグでプレーするという夢のようなニュースは、日本のサッカーファンに大きな衝撃を与えた。

 「アンコーさ、このままじゃ、決まっちゃうよな。こうなったら、直接、会いに行くしかないか」

 アメリカから日本に戻るジェット機の中で、三木谷は社長室長の安藤公二(通称アンコー)につぶやいた。2018年4月のことだ。

 イニエスタが海外に移籍する、というニュースは、その年の春から流れ始めていた。交渉していたのは、中国のクラブチーム。年俸約35億円に加え、イニエスタが所有するワイナリーのワインを約46億円で買い取るという破格の条件を出していたとも報じられていた。すでに中国に招待されていたという話もあった。安藤は回想する。

 「ゴールデンウイークの直前でした。楽天はFCバルセロナのスポンサーですから、すぐにイニエスタにアポイントを取ってもらって、三木谷自らがイニエスタの自宅を訪れたんです」

「日本のサッカー界を引っ張っていってほしい」

 安藤が何より驚いたのは、三木谷の電光石火の行動力だった。思いついた数日後には、もうイニエスタの自宅に向かっていたのだ。

 「イニエスタは喜んでいましたね。三木谷自らわざわざ家に来てくれたわけですから。握手で迎えてくれて。中国に行くことはほぼ決まっていたと言われていましたけど、決めきれない何かがあったのだと思います。そこに、日本から三木谷がやってきた。FCバルセロナのメインパートナーのトップですからね」

 バルセロナ郊外の大きな邸宅の一角には、ミーティングルームがあった。プロジェクターがあり、大きなモニターが備え付けられていた。イニエスタはここに家族やマネージャーも招き入れた。三木谷が、にこやかに話し始める。安藤は語る。

 「楽天グループという会社やサービスの説明から、ヴィッセル神戸というチームの素晴らしさ、日本の生活環境、神戸の街の特徴まで、いろんなことを話していきました。僕が印象深かったのは、日本のサッカー界を引っ張っていってほしい、という言葉です。イニエスタは、この言葉に一番、反応したんじゃないかと思います」

プライベートジェットで日本へ

 世界ナンバーワンのミッドフィルダーが日本にやってくる。それは、ヴィッセル神戸というクラブチームだけの価値ではない、ということを三木谷はよくわかっていた。日本のサッカー界のためにもイニエスタには来てほしかったのだ。

 この電撃訪問の後、三木谷は日本に戻った。イニエスタはその後、家族とパリで1週間の休暇を取ることになっていた。パリのディズニーランドを訪れると聞いた三木谷は、なんと日本からイニエスタを迎えに行くことを決意する。

 そしてこのパリで、イニエスタはヴィッセル神戸との契約にサインをすることになる。

 「目の前で三木谷とがっちり握手をして。これは現実なのか、とさすがに私も興奮しました。とんでもないことが起きた、と思いましたね。しかも、三木谷はそのままプライベートジェットでイニエスタを日本に連れてきてしまうわけです」

 イニエスタのスタッフも乗り込んだため、安藤は寝る場所がなくなってしまい、ジェットの床に寝転んで寝ることになった。もっとも、目と鼻の先に、世界的なサッカープレーヤーがいるのだ。そうそう眠れるものではなかった。

「新しい友達を連れて東京に帰ります」

 三木谷はこのとき、

 「これから新しい友達を連れて東京に帰ります」

 とイニエスタとのツーショット写真とともにツイッターに投稿している。日本が大騒ぎになったのは、言うまでもない。

 2018年5月24日、イニエスタとヴィッセル神戸の契約が正式発表された。

 「これから神戸に向かいます」

 こうツイートした三木谷は、イニエスタを神戸に招き、鉄板焼きを食べ、神戸の夜景も案内している。さらには翌日、サポーターへのお披露目イベントも開催された。

 「バルセロナに行こう、と決めてから、一カ月経っていない。いやもう、とんでもないスピード感ですよね。大きな決断をして、自ら乗り込んで、しかも連れて帰ってお披露目をする。これができるのが、三木谷なんですよ」

 飛行機の手配をしておく、なんて話ではない。自分で連れて帰ってきてしまったのである。それにしてもFCバルセロナにイニエスタ。世界最高峰なのだ。周囲の想像をはるかに超えることを三木谷は平気でやってしまう。

 「だからもう、最近はなかなか驚かないですね(笑)」


上阪 徹(ブックライター)

(出典:現代ビジネス)     


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社長の決断力と行動力が半端ないっ!