昔の日本代表だったら、ドイツ戦で前半0-1だったら「善戦」で喜んでた。
自分たちなら「もっとやれる」という選手たちの自信があの奇跡を起こした。


(出典 bunshun.ismcdn.jp)

ドイツ戦逆転勝利にもどこか浮かない顔の鎌田大地に見た、日本代表の成長の結晶


11月23日、ハリファ・インターナショナル・スタジアム。カタールW杯での日本代表は、グループリーグ初戦で、かつて4度世界王者に輝いているドイツを2-1で打ち破っている。粘り強く守り、天運にも恵まれながら、終盤に入って一気呵成の総攻撃で逆転勝利に成功した。控えめに言っても、「ドーハの奇跡」だろう。

「前半はひどくて。過去最低の試合だったというか、このままだったら後悔する内容でした」
                
「奇跡」の立役者のひとりである鎌田大地は、試合後のミックスゾーンに出てくると、どこか浮かない顔でそう言った。高揚感に包まれたチームのなかで、異彩を放っていた。逆説的に、それが奇跡を起こした理由を説明していたとも言えるのだ。

「前半は、間違いなく相手をリスペクトしすぎていて......」

 鎌田は淡々と言う。

「みんな、プレーすることを怖がっていたというか、せっかくボールを奪っても、リスクなしで蹴ってしまって、ひとつつなげれば、もっとチャンスになったはず。自分たちが下がりすぎ、後ろの人数が余ってしまい、(プレスも)はまっていなかった。自分もほとんどボールを触れなかったし、どこにポジションを取っても(状況を)変えられなくて、臆病だったし、あのまま終わるのは恥ずかしいと思っていました」

 結果的に0-1で前半を折り返したことは、チームとしては上々の出来だった。しかし、攻撃陣がそれを「善戦」と受けとめていたら、逆転の糸口はつかめなかったかもしれない。自分たちの技術と実力と経験に自負があるからこそ、相手を脅かすことができた。

 鎌田は昨シーズン、フランクフルトでFCバルセロナを撃破し、ヨーロッパリーグ(EL)に優勝している。今シーズンも欧州最高峰のチャンピオンズリーグ(CL)で、マルセイユ、トッテナム・ホットスパー、スポルティング・リスボンと欧州の有力クラブと戦い、3試合連続得点を記録。今やスターダムを駆け上がりつつある。

 彼の才覚は、ドイツ代表選手たちと比べても少しも見劣りしなかった。


ぶっつけ本番の戦術変更にも対応

<日本は卑屈になって受け身に回らなくとも、能動的なサッカーで勝てるチーム>

 鎌田には、それだけの計算が立ったはずだ。

 実際、後半途中に投入された三笘薫、南野拓実、堂安律も強豪ドイツの気迫に呑まれていなかった。リードを許し、超攻撃的な陣容で総攻撃にギアを入れるなか、それぞれが局面で小さな勝利を重ねた。その結果、ドイツを消耗させることに成功し、逆転勝利をもたらしている。とりわけ、三笘は左サイドの1対1で優勢を保つことで、全体を有利にしていた。

「勇気を持ってプレーし、(終盤のように)対等に渡り合えば、(ドイツ相手でも)必ずいい試合ができる」

 鎌田はドイツ戦後に語っているが、その意味は深い。ドイツに対する勝利は、まさに日本サッカー発展の象徴と言えるだろう。

 今や数多くの日本人選手がブンデスリーガ、プレミアリーグ、リーグアン、リーガ・エスパニョーラなどのトップリーグでプレーする時代になった。CL、ELで活躍する日本人は珍しくない。彼らはさまざまな修羅場をくぐり抜け、戦いに柔軟に適応し、リクエストされた戦術をすかさず運用できる。代表選手としても同じことだ。

 鎌田が所属するフランクフルトで3-4-2-1の戦術を運用している。ドイツ戦で森保一監督は、最近の代表戦でほとんど使っていない3-4-2-1を後半の頭から使ってきた。ぶっつけ本番だったわけだが、鎌田にとって真新しいことではなかった。他の選手も、多かれ少なかれ戦いの場数を踏んでいたことで、たとえ自分の特徴を活かしきれなくても、チームに貢献する術を知っていた。

 久保建英もいい例だ。

 左サイドに固定されたことによって、コンビネーションも使えず、相手の裏を取る力を出しきれてはいない。しかし、ディフェンスでは献身的に働いた。そこから攻撃につなげようとするシーンも少なからずあった。ファウルをすることも、ファウルを受けることも同時にあり、局地戦で敵と格闘していた。前半から、日本はドイツの足を使っていた。

その結果として、「神風」は吹いた。ドイツは多くのチャンスを決められず、フィニッシュ精度に問題があった。0-1とリードした後は、次の戦いを計算したのだろう。戦勝気分に浸ってしまい、交代カードを切るたび、パワーダウンしていった。日本が5バックにし、スペースを埋められたことで、攻撃にも勢いが失われた。

 鎌田を筆頭にした日本の選手たちの成長の結晶が、奇跡を呼び込んだ。

「僕はスペシャルなところはない選手。チームがよくなったことで、個人もよくなるところがあるし、個人がチームをよくすることもあると思う」

 鎌田は冷静に言う。彼がチームを牽引しているのは間違いないが、ナルシズムに浸ることはなかった。冷めているようで、熱い選手だ。

「鎌田はポーカーフェイスというか、顔色が変わらないから、プレー中のいい写真を撮影するのは難しい」と、現場でファインダーを向けるフォトグラファーは言う。しかし、サッカーで誰にも負けない、という気概は強い。感情は誰よりも燃え上がる。

「今日の勝ちは大きいですが、すでに過ぎたこと。次のコスタリカ戦で勝ち点を逃せば、意味がなくなってしまう」

 静かな口調が頼もしかった。11月27日は、勝てば早々にベスト16入りも見えてくるコスタリカ戦だ。


(出典:webスポルティーバ)